下請労働者の労災事故について

建設現場や工場、運送業などの現場では、元請会社と下請会社の複雑な関係性の中で多くの労働者が働いています。そして残念ながら、下請労働者が業務中にケガをしたり、病気を発症したりする労災事故は後を絶ちません。

「下請だから労災申請させてもらえないかもしれない」 「元請や社長に迷惑がかかるからと言われて諦めている」

このような悩みを抱えている方は決して少なくありません。本記事では、労災問題に強い弁護士が、下請け現場における労災事故の現状や課題、労働者の権利、そして弁護士に相談するメリットについて分かりやすく解説します。

 下請現場で起こっている労災事故の現状

労働災害の発生件数を業界別に見ると、建設業や製造業、陸上貨物運送事業などが上位を占めています。
これらの現場では、元請会社を頂点として二次・三次といった多重下請構造が形成されていることが一般的です。

厚生労働省の統計等を見ても、労災事故で被災する労働者の多くは、元請会社ではなく下請会社(協力会社)の労働者や一人親方です。
高所からの墜落・転落、資材や機械へのはさまれ・巻き込まれ、重機の事故など、一歩間違えれば命に関わる重大な事故が下請け現場で日々発生しています。 

 

下請労働者に労災事故が多い理由

なぜ、元請よりも下請労働者の労災事故が多く発生してしまうのでしょうか。
そこには下請現場特有の構造的な問題が存在します。

  • 厳しい工期と過酷な労働環境
    元請会社からの厳しい工期設定により、下請会社は過密なスケジュールで作業を進めざるを得ず、安全対策がおろそかになりがちです。
  • 安全管理体制の不足・教育不足
    下請会社によっては、十分な安全衛生教育を実施するリソースや時間が不足しているケースがあります。
  • 危険・有害作業の偏り
    現場において、より危険を伴う作業や負担の大きい作業が下請側へと発注・集中しやすい傾向にあります。

 

労災申請をためらってしまう下請労働者の悩み

下請労働者が事故に遭った際、本来であれば当然受けるべき労災保険の申請をためらってしまうケースが多く見られます。
背景には次のような切実な悩みやプレッシャーが存在します。

  • 「次の仕事がもらえなくなる」という恐怖
    元請に労災を使われると困る」「現場がストップしてしまう」と下請会社の社長や上司から言われ、立場上逆らえない。
  • 労災保険の仕組みに対する誤解
    「下請の自分には労災保険が適用されないのではないか」「自分に過失があったから自己責任だ」と思い込んでしまう。
  • 一人親方や偽装請負の問題
    実質的には労働者のように働いているにもかかわらず、「一人親方だから」「業務委託だから」という理由で労災申請を拒否される。
    ※労働者性(実質的に会社の指揮命令下で働いているか)が認められれば、雇用形態にかかわらず労災の対象となる可能性があります。

 

下請労災と「労災隠し」について

労災事故が発生したにもかかわらず、元請会社や下請会社が以下のような対応をとることを「労災隠し」と呼びます。

①事故が発生したのに労働基準監督署へ死傷病報告書を出さない

②労働基準監督署へ死傷病報告書は出すものの、実際の事故とは発生場所や態様が異なる内容の報告(虚偽報告)をする

③「健康保険を使って治療してくれ」と指示する

④会社が全額ポケットマネー(全額自己負担)で治療費を払うから労災にしないでくれと言う

労災事故が起きた場合、事業主は法令の定めるところにより遅滞なく労働基準監督署への報告をしなければならず、これを怠ったり(不報告)、実際の事故態様と偽って報告(虚偽報告)をした場合、労働安全衛生法違反により刑罰の対象となります(同法101条、120条)。

特に下請労働の関係で多いのが、事故発生場所や事故態様を偽る形(虚偽報告)での労災隠しです。

これは、特に現場では元請の労災保険が適用になる都合上、本当の事故態様を申告すると、「元請に迷惑がかかる」と懸念して、全く別場所、態様での労災事故と申告するよう勤務先会社から言われることがあります。
例えば、下請会社(被災者の所属会社)の土場で起きた単独事故と申告するなどです。
このような別態様でも業務中の事故には違いありませんので、労災保険の適用を受けられるでしょうが、この場合、本当の事故態様・受傷態様とは異なりますので、病院では程度を軽く見られてしまったり(例:自分で転んだだけでしょ)、会社への損害賠償請求が難しくなってしまったりします。

会社の言いなりになって労災保険を請求しなければ、必要な補償を受けられませんし違法な環境下で働かされていたことも明らかにならず、会社からの賠償も受けられないまま泣き寝入りとなってしまう可能性が高まります。

労災隠しをされるままに放置すると、ご自身に重大な不利益が降りかかりかねません。決してそのままにしてはいけません。
詳しくは、「労災隠し」への対処方法~労災隠しの実態と対策をご参照ください。

 

勤務先(雇用主)への損害賠償請求について

労災保険から給付が出れば、それですべて解決ではありません。

実は、労災保険だけでは事故によって被ったすべての損害がカバーされるわけではありません労災保険からは、治療費や休業補償などの給付はありますが、慰謝料は一切ありませんし、休業補償も給料全額までは補償されません。さらに後遺障害や死亡事故となった場合、将来得られたであろう稼働収入も全部はカバーされません。

したがって、被災労働者ご本人やご遺族は、労災保険からの補償給付の他に、会社(勤務先等)に対して、慰謝料や逸失利益等、労災保険ではカバーされない損害を賠償請求することによって確保することはとても大切なことです。

具体的に損害賠償請求として、具体的にどのような内容、金額の請求が可能なのかの目安については、次の記事をご覧ください。
 会社に対して損害賠償請求をお考えの方へ

 労災でご家族を亡くされた方へ

勤務先(雇用主)は労働者が就業するにあたって、その生命、身体、健康の安全に配慮する義務を負っています(労働契約法5条)。
どのような場合に会社の責任が肯定されるかは、様々な場合があり、一概にいうことは難しいですが、例えば、
 ・事業主や他従業員のミスがあった
 ・事故が起きてもおかしくない危険な作業方法だった
 ・以前から危ないと指摘されていたのに改善措置がなされていなかった
 ・法令上要求される安全措置(機械など)がとられていなかった
 ・無資格にもかかわらず作業を行わせていた
 ・新人従業員に十分な教育がないまま作業に従事させていた

 

元請や一次下請に対する損害賠償請求について

ところで、多重下請構造になっている下請労働者の場合、直接の勤務先(雇用主)は資力に乏しかったり、労災事故賠償を担保する保険に加入していないことも多々あります。
他方で、勤務先の上位請負者(元請や一次下請など)は資力があったり、保険に加入していることがあります

このような場合、被災労働者は元請などに対して、損害賠償請求をすることができるのでしょうか。

結論から言えば、下請や孫請会社の労働者であっても、実質的に現場の安全管理を担っていた元請会社に対して損害賠償を請求できるケースは多々あります。

抽象的な言い方にはなりますが、下請業者の従業員に対して、元請業者による直接・間接を含む実質的な指揮監督が及んでいたり、作業場所や作業工程、資材や器具などを元請業者が用意するなど等、作業現場の安全を現実にコントロールしていた又はコントロールし得たと評価できる場合、「特別な社会的接触の関係」にあったとして、安全配慮義務が認められます。

したがいまして、自身の勤務先会社(下請、孫請)だけでなく、元請会社も含めて、あるべき損害賠償をしっかりと追及していくことが重要なのです。

 

実際の事故解決事例

当事務所で取り扱った事案の一例です。

建築現場で落下してきた足場板が頭部を直撃した事故の例

詳細は「建築現場での足場組立作業中、落下してきた足場板が頭部を直撃し負傷、障害3級の認定、約1500万円の賠償金を得た例」をご覧ください。

事故内容

依頼者(30代男性)は、建築現場で地上から足場材を荷上げする担当をしていましたが、上方で他従業員が足場板を取り込む際に落下し、地上にいた依頼者の頭部を直撃する労災事故に遭いました。

依頼者は重篤な傷害を受け、脳やせき髄の損傷で、身体の麻痺や高次脳機能障害、てんかん、視力・視野等の障害が残り、全体を総合して障害等級3級という認定を労基署から受けました。

依頼の経緯

事故が重大であり、勤務先会社には法令違反もあったため、立件され罰金刑も受けていましたが、勤務先や元請会社から依頼者に対して何らかの補償申出があることはなく、治療中の段階でこの先に不安を抱いた依頼者やご家族は、当事務所にご相談、ご依頼をされました。

弁護活動

依頼者の治療は約3年間に及び、その後、労基署から障害3級の認定を受けることができましたが、その間、当事務所は依頼者との連絡を密に取り、適切な等級認定がなされるためのサポートをしてきました。
幸い3級という高い等級が認定されましたので、依頼者は以後、労災障害補償年金を受けることができ、国民厚生年金も受給できることになっていました。

等級認定後、勤務先や元請会社に対して、損害賠償請求を行いました。
勤務先のみならず元請会社も加えたのは、勤務先は個人事業主であり支払能力に不安があることに加え、元請会社も現場監督を常置しており、法律上の責任を負うと考えられたことによります。

しかし、勤務先は「支払う金がない」元請会社は「法律上の責任を負うことを一切認めない」という対応であり、任意交渉解決は不可能でした。
そのため、当方は勤務先と元請会社を被告として、損害賠償請求訴訟を裁判所に提起しました。
訴訟では、主に元請会社が、責任を負うこと自体を激しく争い、また依頼者の障害等級など損害についても激しく争いました。さらに、仮に責任があるとしても、依頼者にも重大な責任があると過失相殺の主張もしてきました。

争点も多く、治療経過も複雑だったので、訴訟も1年半以上に及びましたが、最終的には訴訟上の和解解決に至りました。
依頼者としては、過失相殺をされてしまったことに不満はありましたが、元請会社の責任も認められ、一定の支払を受けることができました。

結果

最終結果として、これまでの労災保険等給付(約1500万円)の他に、依頼者は元請会社と勤務先から約1500万円の賠償金を得ました。

 

一人親方大工が建築現場の屋根から転落した事故の例

詳細は「一人親方大工が新築家屋から転落する事故に遭い脊髄損傷、労災保険の適用はなかったものの、請負会社から数千万円の賠償金を得た例」をご覧ください。

事故内容

依頼者(70代男性)は長年一人親方の大工として稼働していましたが、新築家屋建築中に約3mの高さから転落してしまい、頚椎や胸椎、肋骨の骨折など重篤なケガをしました。脊髄損傷で下肢完全麻痺の後遺障害が残ってしまいました。

依頼者は、所属建築会社に雇用されているわけではなかったので、労災保険に入っておらず、かつ一人親方の労災保険特別加入制度にも入っていなかった(任意加入制度です)ので、労災保険の適用は全くありませんでした。

後遺障害の認定は、労災保険の基準では明らかに障害等級1級ですが、労災保険の適用がそもそもないので、労災保険からの障害年金もありませんでした。

依頼の経緯

依頼者の事故の根本的な原因は、高所作業にもかかわらず安全帯を着用していなかったことにあり、その点には依頼者自身の落度もありますが、請負会社(ハウスメーカーである元請と下請の2社)が親綱を張るなどして安全帯を着用するよう指導していなかったことにも責任があると思われました。

依頼者のご家族は、何の補償もない状況に困り果て、当事務所にご相談、ご依頼をされました。

弁護活動

労基署で労災事故として取り扱われてもいませんので、労災事故であれば存在する事故報告書類もなく、事故状況(それが請負会社の責任を示す基礎となります)の把握は困難を極めました。

しかし、何とか方々の手を尽くし、請負会社に責任がありそうだとの感触が得られましたので、元請と下請の2社に対し、後遺障害1級を前提とした損害賠償の請求をしました。

そうしたところ、元請も下請も、最大の責任原因である安全帯の着用をさせていなかったこと自体は認めるものの、自社には責任がない(元請は「下請の責任」と言い、下請は「元請の責任」と言う)と賠償を拒否しました。

そこで、裁判所への訴訟提起となりました。
訴訟提起後は、諸々の難しい争点がありましたが、最終的には当方の主張・立証が奏功し、裁判所は元請や下請の責任を認め、後遺障害1級を前提とした裁判所和解案を提示するに至りました。ただし、依頼者が熟練の大工でありながら安全帯を着用しなかった点や転落経過について依頼者の過失を認めて過失相殺6割とする内容でした。
双方とも裁判所和解案を受け入れて和解成立となりました。

結果

依頼者は元請及び下請から合計約3600万円の賠償金を得ることができました。

 

早めの相談・依頼で安心を

ここまで下請労働者の労災保険と損害賠償請求について、なるべく平易にご説明して参りましたが、やはり労災認定が実際にどのようになるのか、勤務先や元請へはどのように請求すればよいのか等、法律の専門家ではないご本人、ご家族には難しい面も多々あると思います。

自分の主張は法律的に正しいのか、証拠資料の裏付は十分なのか、損害賠償の基準(相場)は合っているのか、他に請求できるものがあるのかないのか、裁判例などの実務上の取り扱いに沿っているのか否か・・・と不安点をあげればキリがないと思います。

そこで、経験豊富な弁護士に相談・依頼して、労災認定のサポートをしてもらうという選択肢があります。
また、勤務先会社に対する損害賠償請求についても、弁護士に依頼して、その可否の検討、賠償請求手続を行ってもらうという選択肢があります。

弁護士は損害賠償請求が可能と判断した場合、通常、いきなり裁判を起こすのではなく、会社に通知書等の書面で損害賠償の請求をして示談交渉を行います。
残念ながら話し合いで解決できない場合(示談解決できない場合)には、その先のステップとして裁判解決を目指すことになります。
そのため、裁判まで行かずに示談交渉で最終解決に至る割合はかなり高いのです。

弁護士は、労災の賠償についても熟知しており、複雑・煩雑なやりとり、具体的な証拠の収集、事実認定を経た上での法的主張は日常的に行う業務としてよくなれていますから、ご依頼いただくことでこれらを一挙に担い、有利に、迅速に進めることができます。

労災事故に遭われて、お悩みの方はぜひ一度、ご相談なさってみてください。
ご相談は、電話でもメールでもLINEでも可能で、いずれも無料です。ご相談はこちらです。