農業・畜産業における労災について
農業・畜産業は私たちの食生活に欠かせない産業ですが、その裏側では労災事故が問題となっています。
労災事故の実態と具体的なケース、そして、労災被害に遭ってしまった場合、どうすべきかについて解説します。
農業・畜産業の労災事故の状況
農業では、トラクターやコンバイン、ハーベスターなど農機の運転や操作も多く、機械事故(転落、挟まれ、巻き込まれ等)が発生しがちです。
また、畜産業では、機械による事故に加えて、動物(家畜)を相手にするため、家畜との接触事故も多い環境にあります。
そのため、事故を防ぐための対策が求められます。
農業・畜産業の労災事故の特徴・要因
機械による事故
トラクターで農道から転落してしまう事故があります。トラクターは自動車と異なり、車内空間が密閉されていないため、転落によって運転者の身体が受けるダメージが大きく、怪我の程度も重くなりがちです。
また、コンバインは死角の多い農機ですから(後方正面が見えない)、運転者が後ろにいる作業者に気付かず、バックさせて轢いてしまうという事故もあります。
さらに、ハーベスターや選別機等の機械のコンベアやローラー部分に手指や足が挟まれたり巻き込まれることもあります。
適切で安全な方法で運転・操作しているか、危険部分には覆いや囲いがあるか、異物を取り除いたり点検作業の際には機械を止めて作業しているかなどが事故防止のために重要な観点です。
また、トラクターやショベル等の車両系建設機械等は、技能講習や特別教育等を修了した者でなければ運転できません。
公道を走行する免許(大型特殊免許等)だけでは作業できません。
しかし、事実上、無資格で運転作業をさせる職場もみられます。
動物(家畜)による事故
牛や馬、豚など家畜の動きによって、はさまれる、激突される、蹴られる等してケガをしてしまう事故です。
驚かせて不意の動きを招いてしまわないよう、動物に近づく際には声掛けや接触で合図を行うことが重要です。
また、気性が荒い牛や馬もいますから、ロープなどの用具を用いて動きを制限するなど安全対策が必要となることもあります。
特に経験の浅い労働者が被災することが多い
全体では5年未満の経験の労働者が事故被害の半数以上を占めており、そのうち約半分は経験1年未満の労働者が被災する事故となっています。
実際の事故解決事例
当事務所で取り扱った事案の一例です。
詳細は「牧場で暗い中でのスクーターからの転倒、肩関節脱臼、上腕神経叢麻痺の負傷、労災審査請求(障害等級不服申立て)で6級の認定を得て、会社への訴訟で約1200万円の賠償金を得た例」をご覧ください。
事故内容
依頼者(60代男性)は牧場で乳牛の搾乳業務に長年従事していましたが、ある朝、放牧牛を搾乳のための牛舎に追い戻すためにスクーターに乗っていたところ、転倒してしまい、その際に左肩を脱臼する等の負傷をしました。
依頼の経緯
依頼者は、事故の原因は、暗い中でライトの壊れたスクーターで牛追いを行わなければならなかったことにあると考えており、今後の損害賠償の点なども含めて、当事務所にご相談、ご依頼をされました。
当初の障害等級認定と不服申立て、原処分取消し
依頼者は、症状固定に伴って主治医に作成してもらった障害の診断書を管轄労基署に提出し、障害申請をしたところ、12級の認定を受けました。
しかし、これは左肩・肘・手首・指が自動では動かせないことを考慮されていなかったため、不当な認定であるとして、不服申立て(労災審査請求)をしたところ、首尾よく、上位の等級(6級)が認定されました。
会社への賠償請求
6級の障害等級となったため、その後、会社に対して、損害賠償請求を行いました。
損害賠償の内容は、通院慰謝料、休業損害、後遺障害による逸失利益、後遺障害慰謝料等です。
そうしたところ、会社にも代理人弁護士がつき、交渉となりましたが、会社は事故態様について、暗くなかった、スクーターに乗ることは禁じていた等を主張して、責任を認めませんでした。
また、労災審査請求で認められた上位等級(6級)に疑義を示してもいました。
そこで、当方は裁判所への訴訟提起としました。
訴訟では、事故状況(周囲の明るさ、スクーターの利用状況等)についてシビアに争われ、また労災審査請求では6級が認められたものの、被告(勤務先)はその妥当性を争い、こちらもシビアな争いとなりました。
当方は徹底的に主張・立証を尽くした結果、裁判所から示された和解案は、当方にも相応の過失を認めましたが(過失相殺)、被告の責任自体は明確に認めるもので、障害等級も6級前提で和解することができました。
結果
これまでの労災保険等からの給付(約250万円)、会社からの保険金支払(約550万円)とは別に会社が約1200万円を支払うという形で和解となりました。
当方にとっては、大変良い内容であり、依頼者も満足いく結果となりました。
損害額については、本件の場合、使用者への損害賠償請求の前に、審査請求(不服申立て)によって、当初認定(12級)よりも上位の障害等級(6級)を勝ち取ったことがポイントであったと思われます。
労災申請の流れ
農業・畜産業従事中に事故に遭って怪我をしたり、ご家族が亡くなったりした場合、速やかに労災保険による治療や補償を受けられるべく、雇用主の方で手続を行ってくれることが通常です。(または雇用主の所属する漁協にて手続を代行してくれる場合も多いです。)
しかし、何らかの理由で、雇用主側から手続がなされないということもあり得ますので、その場合、被災者(ご遺族)自らが積極的に申請のために動かなければなりません。
労災保険の申請と給付については、詳しく解説したこちらの記事をご覧ください。
労災保険の申請と給付【弁護士が解説】
後遺障害が残ってしまった場合に当事務所でできること
農業・畜産業従事中の労災事故で負傷し、治療を続けたものの後遺障害(手足や指の欠損、関節の可動域制限、痛み・しびれ等の神経症状など)が残ってしまった場合、労働基準監督署に障害等級を認定してもらうために申請をします。
適切な障害等級認定を受けるためには、適切な準備が必要です。
漫然と手続をしたために、本来よりも低い障害等級で評価されてしまっては、大きな不利益を受けてしまいます。
適正な障害等級認定のためのサポートについては、詳しく解説したこちらの記事をご覧ください。
労災保険の障害申請サポート ~適正な障害等級認定のために~
農業・畜産業における労災事故と損害賠償請求について
勤務先(雇用主)は労働者が就業するにあたって、その生命、身体、健康の安全に配慮する義務を負っています(労働契約法5条)。
どのような場合に会社の責任が肯定されるかは、様々な場合があり、一概にいうことは難しいですが、例えば、
・事業主や他従業員のミスがあった
・事故が起きてもおかしくない危険な作業方法だった
・以前から危ないと指摘されていたのに改善措置がなされていなかった
・法令上要求される安全措置(機械など)がとられていなかった
・無資格にもかかわらず作業を行わせていた
・新人従業員に十分な教育がないまま作業に従事させていた
場合などが考えられます。
労災保険からは、治療費や休業補償などの給付はありますが、慰謝料は一切ありませんし、休業補償も給料全額までは補償されません。
さらに後遺障害や死亡事故となった場合、将来得られたであろう稼働収入も全部はカバーされません。
したがって、農業・畜産業労災の労働者ご本人やご遺族は、労災保険からの補償給付の他に、勤務先(雇用主)に対して、慰謝料や逸失利益等、労災保険ではカバーされない損害を賠償請求することによって確保することはとても大切なことです。
具体的に損害賠償請求として、具体的にどのような内容、金額の請求が可能なのかの目安については、次の記事をご覧ください。
会社に対して損害賠償請求をお考えの方へ
農業・畜産業の労働災害事故と「労災隠し」
農業・畜産業を営む会社や個人事業は、規模の小さい牧場等も多く、経営者に遵法精神に欠けるところも見られるのも事実です。
そのようなところでは、業務中の事故にもかかわらず、労災ではないとか、健康保険で治療するようにとか、違法な対応をするところもあります。
もしも、このような労災隠しにあった場合には、すぐにでも労基署や弁護士に相談してください。
労災隠しをされるままに放置すると、ご自身に重大な不利益が降りかかりかねません。
「労災隠し」への対処方法~労災隠しの実態と対策をご参照ください。
早めの相談・依頼で安心を
ここまで農業・畜産業と労災保険、損害賠償請求について、なるべく平易にご説明して参りましたが、やはり労災認定が実際にどのようになるのか、勤務先(雇用主)へはどのように請求すればよいのか等、法律の専門家ではないご本人、ご家族には難しい面も多々あると思います。
自分の主張は法律的に正しいのか、証拠資料の裏付は十分なのか、損害賠償の基準(相場)は合っているのか、他に請求できるものがあるのかないのか、裁判例などの実務上の取り扱いに沿っているのか否か・・・と不安点をあげればキリがないと思います。
そこで、経験豊富な弁護士に相談・依頼して、労災認定のサポートをしてもらうという選択肢があります。
また、勤務先会社に対する損害賠償請求についても、弁護士に依頼して、その可否の検討、賠償請求手続を行ってもらうという選択肢があります。
弁護士は損害賠償請求が可能と判断した場合、通常、いきなり裁判を起こすのではなく、会社に通知書等の書面で損害賠償の請求をして示談交渉を行います。
残念ながら話し合いで解決できない場合(示談解決できない場合)には、その先のステップとして裁判解決を目指すことになります。
そのため、裁判まで行かずに示談交渉で最終解決に至る割合はかなり高いのです。
弁護士は、労災の賠償についても熟知しており、複雑・煩雑なやりとり、具体的な証拠の収集、事実認定を経た上での法的主張は日常的に行う業務としてよくなれていますから、ご依頼いただくことでこれらを一挙に担い、有利に、迅速に進めることができます。
労災事故に遭われて、お悩みの方はぜひ一度、ご相談なさってみてください。
ご相談は、電話でもメールでもLINEでも可能で、いずれも無料です。ご相談はこちらです。














