陸上運送業における労災について
トラックをはじめとする陸上貨物運送業は、日本の物流を支える非常に重要な産業です。
しかし、その一方で業務中に怪我を負ったり、過酷な労働環境から体調を崩してしまったりする「労災(労働災害)」事故の発生割合が非常に高い業種でもあります。
万が一、業務中の事故に遭ったり、過重労働により脳・心臓疾患などになってしまった場合、どのように対応すべきなのでしょうか。
本記事では、運送業における労災事故の傾向や代表的な事故パターン、実際に当事務所で取り扱った解決事例の紹介、労災申請の流れ、さらには会社への損害賠償請求、労災隠しへの対応まで、労災問題に強い弁護士が分かりやすく解説します。
陸上運送業における労災事故の発生状況
令和7年の統計上、陸上貨物運送業における災害発生状況は、厚生労働省の統計によると、死亡者数80人(うち北海道6人)、死傷者1万5632人(うち北海道819人)となっています。
陸上貨物運送業は全産業の中でも、製造業や建設業に次いで、労働災害の発生件数(死傷者数)や死亡者数が非常に多い危険な業種の一つとされています。
自動車運転という危険を伴う業務であることに加え、荷物の積み下ろし(荷役作業)や長距離移動に伴う長時間労働・夜間勤務など、身体的・精神的な負担が大きいことが要因です。また、ドライバーの高齢化や労働力不足も影響し、一人あたりの負荷が増加している現状があります。
事故に遭ってしまった場合、「自分の不注意だから…」と一人で抱え込まず、正当な補償を受けるための然るべき手続を進めることが大切です。
陸上運送業で発生しやすい代表的な労災事故
「運送業の労災」と聞くと交通事故を連想しがちですが、実は走行中の交通事故よりも荷役作業中の事故の方が圧倒的に多いのが特徴です。
代表的な4つの事故パターンを見ていきましょう。
車両からの転落・墜落
運送業の労災事故で最も多いのが、トラックの荷台やアオリ、ウイング、ステップなどからの転落・墜落事故です。
- トラックの荷台で作業中に足を滑らせて転落した
- 荷崩れを防ごうとしてバランスを崩し落ちてしまった
高所からの転落はもちろん、トラックの荷台程度(1〜2メートル前後)の高さからであっても、頭部打撲や骨折などの重篤な怪我につながる危険があります。
転倒
作業現場の床や路上での「転倒」も非常に多く発生しています。
- 雨や雪で滑りやすくなった荷台やバンパーの上で足を滑らせた
- 荷物を運搬中に足元の段差につまずいた
- 冬場の凍結路面で転倒した(※札幌をはじめ北海道内では特に多発します)
特に重い荷物を持ち運んでいる状態では転倒もしやすく、転倒した結果の受傷も程度が重くなりやすく、腰痛や骨折、靭帯損傷などを引き起こします。
車両にはさまれ、巻き込まれ
フォークリフトやトラックのウィング、リアゲート(パワーゲート)などに挟まれる事故です。
- フォークリフトのバック時に車体と壁の間に挟まれた
- パワーゲートの昇降時に手足を挟み込んだ
- トラックの荷台の扉が突風で閉まり挟まれた
これらの事故は重篤な後遺障害(骨折、切断、麻痺など)を残すリスクが大きいのが特徴です。
車両との衝突・人身交通事故
トラックの運転中における他の車両との衝突事故や、荷役作業中に他の車両・フォークリフトにはねられる事故です。
- 走行中の追突・交差点事故
- 荷役現場で動いてきたフォークリフトや他のトラックと衝突された
事故の衝撃が大きいため、頸椎捻挫(むち打ち)から脳損傷、全身骨折、最悪の場合は死亡事故につながるケースも少なくありません。
実際の事故事例
当事務所で取り扱った事案の一例です。
トレーラー内からの荷搬出作業中の転落事故の例
詳細は「トレーラー内からの荷搬出作業中、トレーラー内の段差で転落し、手首を骨折、後遺障害12級の認定、賠償金を得た例」をご覧ください。
事故内容
依頼者(40代男性)は、物流会社に勤務し、配送車両(トレーラー)から荷卸しをする業務に従事していました。
荷卸し作業中、トレーラー内の段差から転落し、床面についた手首を骨折する労災事故に遭いました。
依頼者は治療をしたものの、手首の可動域制限や痛みの後遺症状が残り、労基署から12級の障害等級の認定を受けました。
依頼の経緯
労災保険からの給付金の他には、会社からは他に何の補償もありませんでした。
会社は、依頼者が転んで落ちただけで会社には何の落ち度もないという態度でした。
しかし、依頼者の労災事故は、荷物をもって段差を降りなければならなかった作業環境に問題がある、上司が安全面を顧みずにとにかく作業員に作業を急がせた、ヘルメットの着用等の安全管理体制に不備があった等の結果、起きたものであり、会社に責任を問い得ると思われるものでした。
そのため、依頼者は当事務所にご相談、ご依頼をされました。
弁護活動
会社に対して、事故の原因は会社の安全配慮義務違反(適切な用具の手配、適切な作業方法の指示の懈怠)にあるとして、損害賠償請求を行いました。
会社にも代理人弁護士がつき、事故態様や安全管理体制を争う旨の主張をしてきましたが、結論として、依頼者の過失割合を50%とした上で補償金を支払う旨の回答をしてきました。
会社が一定の支払義務を前提とした回答をしてきたことは評価できるものでしたが、50%もの過失相殺は受け入れられませんでした。
そこで、各証拠等に基づいて本来の事故態様を指摘し、事故後も会社は不十分な安全管理体制であった旨を認めていたこと等を指摘しました。
その上で、訴訟となると相当に長期化することもあり、当方も一定の金額的譲歩を受け入れる内容の提案をしました。具体的には当方請求額から約15%程度の減額提案です。これは会社も任意示談解決を望んでいる雰囲気であったことも考慮して行ったものでした。
そうしたところ、会社は当方の提案に応じ、当方の提案内容で任意示談解決をすることとなりました。
結果
それまでの労災保険給付(約500万円)の他に、依頼者は勤務先会社から約600万円の賠償金を得ました。
長時間運転労働のため脳出血となった例
詳細は「昼夜連勤を含む長時間運転(労働)のため、くも膜下出血を発症し、高次脳機能障害、半身麻痺で障害等級2級の認定、会社から賠償金を得た例」をご覧ください。
事故内容
依頼者(50代男性)は、ダンプの運転手として勤務していましたが、1か月あたりの残業時間が百数十時間に達しており、しかも、昼夜連勤の勤務も伴っていたこともあって、依頼者はくも膜下出血を発症してしまいました。
幸い、依頼者は一命を取り留めましたが、脳に重い障害を残してしまいました。高次脳機能障害(記憶や注意、言語、感情など脳の機能に生じる障害)と脳損傷由来の身体の軽度麻痺です。
これらの障害について、労基署からは2級の障害等級認定を受けました。
依頼の経緯
依頼者やご家族は、事故後の比較的早い段階で、今後の労災保険からの補償や勤務先会社への賠償に不安を感じ、当事務所にご相談をされました。
治療には長くかかることが予想されたので、今後も状況に応じて継続的な相談が可能な「継続相談プラン」をご希望になり、その後も当事務所は継続的にフォローしていました。
弁護活動
長時間労働による脳出血ですから、会社には安全配慮義務違反があると考えられますので、会社に対する損害賠償請求をしました。
当方からの請求を受けた勤務先会社は、代理人弁護士を立てて交渉に臨んできました。会社側は責任を認めると明言はしないものの、早期の解決のために金銭支払に応じるというものでした。
長時間労働等による脳疾患を発症して、労災認定を受けている場合、会社の方で責任を否定するのは、相当に難しいのが実情で、それゆえに会社側も金銭支払義務を認めて早期の幕引きを図りたかったものと思われます。
ただ、勤務先会社はあまり大きな会社ではなく、依頼者の障害は重く賠償請求金額は巨額に上っていたので、会社が賠償金を負担できるか(払えるか)は当方にとっても不安なところでした。
案の定、やはり勤務先会社は、巨額の賠償金を支払う経営状況ではないという言い分でした。
この点について、依頼者とよくよく協議した結果、本来あるべき賠償金額からは大幅に譲歩しても、一定の金額を得る方が得策との結論に至り、可能な限りの増額を得ることを目標に会社側と交渉しました(示談交渉)。
結果、当初勤務先会社が提示してきた金額からは2倍以上に増額した金額での任意和解(示談)に至りました。
結果
それまでの労災保険給付(約2000万円)の他に、会社から約4000万円の支払を受けることができました。
また、依頼者は2級の障害等級認定を受けていますので、今後も労災年金を継続的に受給することができました。
労災申請の流れ
陸上運送業従事中に事故に遭って怪我をしたり、ご家族が亡くなったりした場合、速やかに労災保険による治療や補償を受けられるべく、雇用主の方で手続を行ってくれることが通常です。(または雇用主の所属する漁協にて手続を代行してくれる場合も多いです。)
しかし、何らかの理由で、雇用主側から手続がなされないということもあり得ますので、その場合、被災者(ご遺族)自らが積極的に申請のために動かなければなりません。
労災保険の申請と給付については、詳しく解説したこちらの記事をご覧ください。
労災保険の申請と給付【弁護士が解説】
会社が労災保険に加入していなかった場合
「会社が労災保険に加入していなかった」、「一人親方として働いていたため適用されないと言われた」というご相談を受けることがあります。
しかし、原則として労働者(パート・アルバイト・契約社員を含む)を1人でも雇用している事業所は、労災保険への加入が義務付けられています。
そのため、仮に会社が加入手続きを怠っていた(未加入だった)としても、労働者は労災保険から給付を受けることができます。
会社が「うちには労災はない」と言ってきても、諦める必要はありません。
後遺障害が残ってしまった場合に当事務所でできること
陸上運送業従事中の労災事故で負傷し、治療を続けたものの後遺障害(手足や指の欠損、関節の可動域制限、痛み・しびれ等の神経症状など)が残ってしまった場合、労働基準監督署に障害等級を認定してもらうために申請をします。
適切な障害等級認定を受けるためには、適切な準備が必要です。
漫然と手続をしたために、本来よりも低い障害等級で評価されてしまっては、大きな不利益を受けてしまいます。
適正な障害等級認定のためのサポートについては、詳しく解説したこちらの記事をご覧ください。
労災保険の障害申請サポート ~適正な障害等級認定のために~
陸上運送業における労災事故と損害賠償請求について
「労災保険から給付が出れば、それですべて解決」とお考えではありませんか?
実は、労災保険だけでは事故によって被ったすべての損害がカバーされるわけではありません。
労災保険からは、治療費や休業補償などの給付はありますが、慰謝料は一切ありませんし、休業補償も給料全額までは補償されません。
さらに、後遺障害が残ったり、死亡事故となった場合、将来得られたであろう稼働収入も全部はカバーされません。
したがって、陸上運送業労災の労働者ご本人やご遺族にとって、労災保険からの補償給付の他に、勤務先(雇用主)に対して、慰謝料や逸失利益等、労災保険ではカバーされない損害を賠償請求することによって確保することはとても大切なことです。
具体的に損害賠償請求として、具体的にどのような内容、金額の請求が可能なのかの目安については、次の記事をご覧ください。
会社に対して損害賠償請求をお考えの方へ
安全配慮義務について
勤務先(雇用主)は労働者が就業するにあたって、その生命、身体、健康の安全に配慮する義務を負っており(労働契約法5条)、この義務に違反した場合、労働者の損害を賠償する責任を負います。
どのような場合に会社の責任が肯定されるかは、様々な場合があり、一概にいうことは難しいですが、例えば、
・事業主や他従業員のミスがあった
・事故が起きてもおかしくない危険な作業方法だった
・以前から危ないと指摘されていたのに改善措置がなされていなかった
・法令上要求される安全措置(機械など)がとられていなかった
・無資格にもかかわらず作業を行わせていた
・新人従業員に十分な教育がないまま作業に従事させていた
場合などが考えられます。
特に、陸上運送業の関係でいうと、
・トラックの点検・整備を怠っていた
・ヘルメットや安全帯などの安全具を着用させていなかった
・足場が不安定、暗い場所での作業など危険がある態様で荷役作業を行わせていた
・無資格・未教育での操作を行わせたり、十分な安全教育を行っていなかった。
・過密スケジュールや過労死ラインを超える長時間労働に従事させられていた
といった事情がある場合には、会社の安全配慮義務違反が認められ、損害賠償請求ができる可能性が非常に高いといえます。
陸上運送業の労災事故と「労災隠し」
陸上運送業を営む会社や個人事業主の中には、経営者に遵法精神に欠けるところも見られるのも事実です。
そのようなところでは、業務中の事故にもかかわらず、労災ではないとか、健康保険で治療するようにとか、違法な対応をするところもあります。
もしも、このような労災隠しにあった場合には、すぐにでも労基署や弁護士に相談してください。
労災隠しをされるままに放置すると、ご自身に重大な不利益が降りかかりかねません。
「労災隠し」への対処方法~労災隠しの実態と対策をご参照ください。
早めの相談・依頼で安心を
ここまで陸上運送業と労災保険、損害賠償請求について、なるべく平易にご説明して参りましたが、やはり労災認定が実際にどのようになるのか、勤務先(雇用主)へはどのように請求すればよいのか等、法律の専門家ではないご本人、ご家族には難しい面も多々あると思います。
自分の主張は法律的に正しいのか、証拠資料の裏付は十分なのか、損害賠償の基準(相場)は合っているのか、他に請求できるものがあるのかないのか、裁判例などの実務上の取り扱いに沿っているのか否か・・・と不安点をあげればキリがないと思います。
そこで、経験豊富な弁護士に相談・依頼して、労災認定のサポートをしてもらうという選択肢があります。
また、勤務先会社に対する損害賠償請求についても、弁護士に依頼して、その可否の検討、賠償請求手続を行ってもらうという選択肢があります。
弁護士は損害賠償請求が可能と判断した場合、通常、いきなり裁判を起こすのではなく、会社に通知書等の書面で損害賠償の請求をして示談交渉を行います。
残念ながら話し合いで解決できない場合(示談解決できない場合)には、その先のステップとして裁判解決を目指すことになります。
そのため、裁判まで行かずに示談交渉で最終解決に至る割合はかなり高いのです。
弁護士は、労災の賠償についても熟知しており、複雑・煩雑なやりとり、具体的な証拠の収集、事実認定を経た上での法的主張は日常的に行う業務としてよくなれていますから、ご依頼いただくことでこれらを一挙に担い、有利に、迅速に進めることができます。
労災事故に遭われて、お悩みの方はぜひ一度、ご相談なさってみてください。
ご相談は、電話でもメールでもLINEでも可能で、いずれも無料です。ご相談はこちらです。














