うつ病など精神疾患の方へ

 うつ病、適応障害、PTSDなどの精神疾患も労災認定の対象です

~労災保険からの給付、加害者・会社への損害賠償~

 パワハラ・セクハラや過重労働などの業務上の原因からメンタル面を崩し、うつ病や適応障害などの精神疾患を発症してしまった場合や、業務上の大きな事故により身体的負傷のみならず、フラッシュバックするなど事故がトラウマとなって精神面も崩した場合などには、その精神疾患についても、労働災害(労災)と認定されれば、労災保険から給付を受けることができます。

 精神疾患についての労災認定要件と、労災申請方法をご説明します。

1.精神疾患についての労災認定要件

 ただ単に、業務のせいでメンタル面を崩した、精神疾患を発症した、というだけでは、労災認定を受けられるとは限りません。
 精神疾患は業務面での負荷だけではなく、私生活など様々な要因による負荷によっても発症する可能性があるため、「精神疾患の原因は業務か否か」という点を中心に労基署による調査がなされます。
 厚生労働省は、精神疾患についての労災認定を行う際の3つの要件を公表しています。
 厚生労働省「精神障害の労災認定」 

要件① 認定基準の対象となる精神疾患を発症していること

 気分障害(うつ病を含む)、急性ストレス障害、心的外傷後ストレス障害(PTSD)、統合失調症など、特定の精神疾患を発症したことが必要です。当然ながら診断は医師によって行われる必要があります。

要件② 認定基準の対象となる精神疾患の発症前おおむね6か月の間に、業務による強い心理的負荷が認められること

 これが最も重要で中心的な要件です。
 問題はどういう事柄があったら、「業務による強い心理的負荷」があったと認められるのかですが、厚生労働省は「業務による心理的負荷評価表」というものを設けており、この表のどの類型の出来事にあたるか、程度はどうかといった基準により、「強い心理的負荷」があったか否かを判断しています。

「特別な出来事」があった場合
 ・生死にかかわる、極度の苦痛を伴う、又は永久労働不能となる後遺障害を残す業務上の病気やケガをした。
 ・業務に関連し、他人を死亡させ、又は生死に関わる重大なケガを負わせた。
 ・強姦や、本人の意思を抑圧して行われたわいせつ行為などのセクハラを受けた。
 ・極度の長時間労働(発症直前1か月におおむね160時間を超えるような時間外労働を行った。
 以上のような出来事は「特別な出来事」であるとされ、これがあった場合、原則として「強い心理的負荷」があったと判断されます。

「特別な出来事」はない場合
 上記の「特別な出来事」がない場合でも、例えば、以下のような個々の出来事があった場合(複数の出来事の複合による場合も含む)も、原則として「強い心理的負荷」があったと判断されます。
 ・業務上で重度のケガをした
 ・職場で悲惨な事故があった
 ・(慣習として行われることがあっても)本来は違法な行為を強要された
 ・達成困難なノルマを課され、ノルマを達成できなかった
 ・執拗で恐怖感をいだかせる退職を強要された
 ・上司等から身体的攻撃、精神的攻撃等の執拗なパワハラを受けた
 ・同僚等から暴行やひどいいじめ・嫌がらせをうけた
 ・継続的なセクハラを受けた
 ・恒常的な長時間労働があった

要件③ 業務以外の心理的負荷や個体側要因により発病したものとは認められないこと

 業務以外の要因で発病したとはいえないことも要件とされています。
 例えば、業務とは無関係に配偶者と離婚した、流産してしまった、家族が死亡・重い怪我を負った、犯罪に巻き込まれたなど、それだけで強い心理的負荷を受けるであろう出来事があった場合、「業務以外の心理的負荷」によって発病したと評価されやすくなります。
 また、元々精神疾患を患っていた、アルコール依存症であったなど、元々精神疾患を発症しやすい方については、それが原因での発症でないか慎重な判断がなされます。
 もっとも、私生活が順風満帆という状況でなかったとしても、あくまで主原因は業務上受けた心理的負荷であるとして、労災と認定される可能性もあります。他にも原因が考えられるからといって簡単に諦めないようにしてください。
 要件②の「業務による強い心理的負荷」があったとされながら、要件③を満たさないとして労災認定がなされないという例はあまり見受けられません。

2.労災申請手続について

①診断書の作成
 まずは、申請に先立って、対象疾患を発症しているとの内容診断書を医師に作成してもらいます。症状について軽めに申告してしまう方もいますが、症状は正確に伝えないとちゃんとした病名をつけてもらえないこともあるため、遠慮せずしっかりと症状を伝えてください。

②労基署への相談と申請書の作成
 労基署においては、労災に遭った労働者のために広く相談窓口を開いています。そこでの相談から、具体的な申請方法等を教示してもらえることが多く、遠慮せずに具体的にご相談をされることをお勧めします。
 その上で申請書などを作成して、労災申請をすることになりますが、特に精神疾患の場合には留意点があります。
 精神疾患の場合、原因となった業務上の出来事について、特に具体的に申告することが重要です。特に、上司からのパワハラや、同僚等からいじめ、という職場内での人間関係に関係する出来事は通常、1回こっきりのことではなく、ある程度の時系列での流れ、大小様々な出来事の積み重ねがあります。このような場合に、ただ「パワハラされた」とか「職場でいじめにあった」とか言う(記載する)のみでは不十分です。その「パワハラ」や「いじめ」の中身の具体的事実を事細かに、可能な限り裏付資料をもって主張することが重要なのです。

3.会社への損害賠償請求

 会社(事業主)は従業員との雇用契約の附随義務として、従業員の生命、身体、健康の安全に配慮する義務を負っています(安全配慮義務、労働契約法第5条)。会社が安全配慮義務に反し、その結果、従業員が健康を害する等の損害を被った場合、会社はその損害を賠償しなければなりません。
 そして、一般に会社は、職場におけるパワハラ等を防止するため、適切なパワハラ防止のための教育と、的確なパワハラ等の実態把握と是正措置をとり、良好な労働環境を維持すべき義務があります。いじめについても同様と考えられます。
 したがって、パワハラ型やいじめ型の労災があった場合には、会社は損害賠償責任を負うとされることが多いと考えられます。
 また、物理的事故型労災で、他の従業員のミスによるとか、会社の安全管理に不備があるとかの場合で、その事故の重大性等から身体的ケガのみならず、精神疾患も発症してしまったなどの場合も、労災事故に責任がある会社は精神疾患による損害についても損害賠償責任を負うとされることが多いと考えられます。

 とはいえ、一個人である労災に遭われた被災労働者が、独力で会社とやりとりをするのは困難を極めます。
 弁護士は、労災の賠償についても熟知しており、複雑・煩雑なやりとり、具体的な証拠の収集、事実認定を経た上での法的主張は日常的に行う業務としてよくなれていますから、ご依頼いただくことでこれらを一挙に担い、有利に、迅速に進めることができます。
 労災事故に遭われて、お悩みの方はぜひ一度、ご相談なさってみてください。
 ご相談は、電話でもメールでもLINEでも可能で、いずれも無料です。ご相談はこちらです。