労災でご家族を亡くされた方へ
労働災害でご家族を亡くしてしまった場合、ご遺族の悲しみは言葉には表現できないほど大きいものです。
また、日々の生活上の支障としても、一家の稼ぎ頭であった労働者が亡くなるとご遺族の今後の生活費にも重大な影響があります。そこで、労災保険では、死亡労働災害の場合、遺族年金等の各給付金が用意されています。ご遺族の今後の生活補償のために、必ず申請しましょう。
さらに、労働災害の内容・態様によっては、労災保険からの補償給付の他に賠償金を受けて然るべき場合もあります。
今回は、労働災害でご家族を亡くされた遺族ができること、すべきことを、弁護士が解説いたします。
死亡事故において受け取れる労災給付(概要)
遺族補償給付
遺族補償年金とは
業務が原因で亡くなった労働者のご遺族等に対し支給される年金です。
受給資格者(概要)
受給資格者となるのは、被災労働者の死亡当時その収入によって生計を維持していた配偶者・子・父母・孫・祖父母・兄弟姉妹ですが、妻以外のご遺族については、被災労働者の死亡の当時に一定の高齢または年少であるか、あるいは一定の障害の状態にあることが必要です。
給付の内容(概要)
被災労働者の給付基礎日額(≒給与等の額)やご遺族数によって、金額が変わってきます。
ご遺族が1人の場合、給付基礎日額の153日分(原則として)
2人の場合、給付基礎日額の201日分
3人の場合、給付基礎日額の223日分
4人の場合、給付基礎日額の245日分
また、給付基礎日額や遺族数にかかわらず、定額の遺族特別支給金(一時金)300万円も支給されます。
遺族補償一時金とは
業務が原因で亡くなった労働者に遺族補償等年金を受けるご遺族がいない場合に支給される一時金です。
受給資格者(概要)
遺族補償一時金の受給権者は、次の①~④のご遺族でこのうちの最優先順位者となります。
①配偶者、②被災労働者の死亡当時その収入によって生計を維持していた子・父母・孫・祖父母、③その他の子・父母・孫・祖父母、④兄弟姉妹
給付の内容(概要)
給付基礎日額の1000日分
遺族特別支給金300万円(定額)
葬祭料
被災労働者の葬祭を執り行ったご遺族等に対し、「31万5000円+給付基礎日額の30日分」の金額が支給されます。
以上の各労災保険給付についての詳細は、厚生労働省のリーフレットに記載がありますので、詳しくはそちらもご覧ください。
会社への損害賠償請求
死亡労災事故があった場合、当然に労災保険給付の申請が可能ですが、その他に会社等の雇用主に対する損害賠償請求が可能な場合があります。
その労災事故の発生について、会社に安全配慮義務違反(機械・設備の不備、安全管理・教育の不備など)があったり、他従業員のミスによる事故であった場合には、会社に対して、損害賠償請求をすることができます。
労災保険からは「慰謝料」は一切支給されませんが、損害賠償としては「死亡慰謝料」の請求が可能です。
また、損害賠償として、「逸失利益」(将来得られるはずだったのに得られなくなった収入)の請求も可能です。労災保険からは労災補償年金の支給はありますが、通常、逸失利益はそれにとどまるものではなく、さらに請求が可能な場合がほとんどです。
死亡慰謝料
死亡慰謝料とは
労災事故により労働者が死亡した場合に支払われる慰謝料です。
一般的な基準は、裁判所における判決で認められる金額を参考にしており、おおむね次のような基準となっています。
・被災者が一家の支柱の場合・・・2800万円
・被災者が母親、配偶者の場合・・・2500万円
・被災者がその他の場合・・・2000万円~2500万円
上記のように、死亡慰謝料は、被災者がその家庭でどのような立場にあったかによって金額差が出ます。
なお、法律上、死亡慰謝料というのは被災した(死亡した)ご本人に生じた慰謝料(をご遺族が相続したもの)という位置づけなのですが、死亡事故の場合、被災者の近親者も被災者を亡くしたことによって、独自に精神的苦痛を被ることも大いに考えられます。そのため、近親者固有の慰謝料が認められる場合もあります。
労災保険からの受け取った給付金は死亡慰謝料から差し引かれるのか
結論から言いますと、慰謝料からは差し引かれません。
労災事故により被災者が死亡した場合、労災保険から、①遺族(補償)年金(または一時金)、②遺族特別年金(または一時金)、③遺族特別支給金(定額300万円)が給付されます。
これらの労災保険からの給付金について、会社(事業主)に請求できる死亡慰謝料から差し引かれるのかというと、差し引かれないのです。
その理由は、まず、②遺族特別年金(または一時金)、③遺族特別支給金については、労災保険からの「特別〇〇金」は、そもそも損益相殺(差し引き)の対象にならないことによります。
また、①遺族(補償)年金(または一時金)については、損益相殺の「費目拘束」という考え方により、「遺族(補償)年金(または一時金」とは性質の異なる費目(賠償項目)である「死亡慰謝料」からの損益相殺(差し引き)は認められないからです。(ただし、死亡による逸失利益からは差し引かれます。)
死亡逸失利益
死亡による逸失利益とは
労災事故により亡くなった場合、当然ながら、死亡事故以降の稼働(労働)収入を喪失します。この失った利益(収入)を逸失利益といいます。
死亡逸失利益は、(労災事故前の年収)×(1-生活費控除率)×(労働能力喪失期間に対応する係数)で算出されます。
例として、当時40歳で扶養親族が3人(妻と子2人)、年収400万円だった方が労災事故で亡くなった場合、
(労災事故前の年収)400万円
(生活費控除率(※1))0.3
(労働能力喪失期間(※2)に対応する係数(※3))18.3270
400万円×(1-0.3)×18.3270=5131万5600円
逸失利益は「5131万5600円」となります。
※1 生活費控除率とは、亡くなったことで将来収入が失われる一方で、将来の生活費支出がなくなることを考慮して、損害額算定の際に一定割合を生活費分として控除するものです。亡くなった方が一家の支柱であるか、被扶養者は何人か、一家の支柱でなければ男性か女性かなどによって、標準化された数値を用います。
※2 原則として、67歳までの年数です。
※3「ライプニッツ係数」といいます。将来の1年ごとに発生する損害を、現在の一時に受け取る(前受け)ために、いわゆる受取利息の反対にディスカウントされる、という理解です。令和5年現在の法定利率3%を前提として、27年に対応するライプニッツ係数は18.3270です。
労災保険からの受け取った給付金は死亡逸失利益から差し引かれるのか
結論から言いますと、一部のみ差し引かれます。
労災事故により被災者が死亡した場合、労災保険から、①遺族(補償)年金(または一時金)、②遺族特別年金(または一時金)、③遺族特別支給金(定額300万円)が給付されます。
これらの労災保険からの給付金について、会社(事業主)に請求できる死亡逸失利益から差し引かれるのかというと、
①遺族(補償)年金(または一時金):一部のみが差し引かれる
「一部」はどれくらいかですが、原則として、賠償交渉が妥結した時点までに受領済みの年金(遺族年金)分、または、判決までに受領済みの年金(遺族年金)分、です。
②遺族特別年金(または一時金):差し引かれない
③遺族特別支給金(定額300万円):差し引かれない
②や③が差し引かれない理由は、労災保険からの「特別〇〇金」は、そもそも損益相殺(差し引き)の対象にならないという賠償上のルールによります。
早めの相談・依頼で安心を
ここまで死亡労災事故と損害賠償請求についてご説明しましたが、被災労働者がこれまで勤めていた会社に対し、ご遺族が請求し、交渉することはとても勇気のいることですし、法律的知識などの面からいってもハードルが高いことは想像に難くありません。
自分の主張は法律的に正しいのか、証拠資料の裏付は十分なのか、損害賠償の基準(相場)は合っているのか、他に請求できるものがあるのかないのか、裁判例などの実務上の取り扱いに沿っているのか否か・・・と不安点をあげればキリがないと思います。
そこで、経験豊富な弁護士に依頼して、会社に対する損害賠償請求の可否の検討、賠償請求を行ってもらうという選択肢があります。
弁護士は損害賠償請求が可能と判断した場合、通常、いきなり裁判を起こすのではなく、会社に通知書等の書面で損害賠償の請求をして示談交渉を行います。残念ながら話し合いで解決できない場合(示談解決できない場合)には、その先のステップとして裁判解決を目指すことになります。
ただ、死亡事故のような大きな労災事故が不幸にして発生してしまった場合、会社の安全管理に何らかの不備が認められることが非常に多いです。完全な被災労働者の不注意・自己責任だけで重大災害が起こるということは稀なのです。
その意味で、死亡労災事故の場合、裁判まで行かずに示談交渉で最終解決に至る割合はかなり高いのです。
弁護士は、労災の賠償についても熟知しており、複雑・煩雑なやりとり、具体的な証拠の収集、事実認定を経た上での法的主張は日常的に行う業務としてよくなれていますから、ご依頼いただくことでこれらを一挙に担い、有利に、迅速に進めることができます。
労災事故に遭われて、お悩みの方はぜひ一度、ご相談なさってみてください。
ご相談は、電話でもメールでもLINEでも可能で、いずれも無料です。ご相談はこちらです。