建設現場における労災事故があった場合の補償について解説
仕事中に業務で怪我をすることを労災(労働災害)といいますが、労災には業種によって特徴があります。
その中でも、労災の加入方法や労災の内容で特徴的なのが建設現場です。
本記事では、建設現場において労災事故があった場合の補償について解説します。
建設現場における労災の特徴
建設現場における労災には次の2つの特徴があります。
建設現場単位で元請会社の労災保険に加入する
建設現場における労災の特徴の一つが、建設現場単位で元請会社の労災保険に加入することです。
建設現場では、元請会社が発注を受け、多くの下請会社を利用して工事を完成させます。
そのため、建設現場では、工事を一つの事業とみなし、元請会社が下請会社の労働者も含めて労災保険に加入することになっています。
建設現場における労災は重大な事故につながりやすい
建設現場における労災は重大な事故につながりやすいという特徴があります。
令和4年度の労働災害発生状況によると、建設業の死傷災害(休業4日以上)は14,539件起きており、その約31%の 4594件が「墜落・転落」が原因となっています。
死亡災害となった281件のうち、41%の 116件が「墜落・転落」が原因のものです。
高くて不安定で転落のおそれがあるところで作業をするという特性から、墜落・転落といった労災が発生しやすく、これらは死亡に至る重大な事故の原因となります。
ほかの原因を見ても「はさまれ・巻き込まれ」、「 崩壊・倒壊」、「飛来・落下」、「 激突され」といった、大きな機械を用いる、物が倒れてくる・落ちてくる、といった建設現場ならではのもので、大きな怪我につながるものが多いという特徴があります。
建設現場で労災に被災した場合の補償
建設現場で労災に被災した場合には、どのような補償を得ることができるかを確認しておきましょう。
労災保険
労災に被災した場合の補償としては労災保険があります。
労災保険とは
労災保険とは、業務上の事由又は通勤によって労働者が怪我をした・病気になった場合に、保険給付を行う制度のことをいいます。
労働者を雇用する場合には会社(事業主)は必ず加入しなければならないことになっており、建設業では上述したように元請会社が下請会社の労働者と一括して加入することになっています。
保険料は会社(事業主)が払います。
労災保険の給付内容
労災保険の給付内容には次のものがあります。
- 療養補償給付:治療費や入院費などの治療にかかる実費の補償
- 休業補償給付:労災におる怪我・病気が原因で仕事を休んだ場合の補償で給付基礎日額の80%が給付される
- 障害補償給付:後遺障害が残った場合に認定された障害等級に応じて給付される
- 遺族補償給付:被災した労働者が亡くなった場合に遺族に給付される
- 葬祭料・葬祭給付:被災した労働者が亡くなった場合に葬儀費用を補てんする
- 傷病補償等給付:第3級以上に該当する重篤な負傷や疾病1年6か月以上治らない被災者に対してされる給付
- 介護補償給付:障害等級・傷病等級が第1級である・第2級の「精神神経・胸腹部臓器の障害」を有している場合で現に介護を受けている場合に支給される給付
建設現場における労災の場合、上述したように比較的重い事故が起こる傾向にあるので、これらすべての給付が問題になることがあります。
労災保険の給付を受けるための手続きの流れ
労災保険の給付を受けるための手続きの流れは次のとおりです。
- 労災保険の請求書の入手
- 請求書を作成して労働基準監督署に提出
- 労働基準監督署によって調査が行われ認定され給付を受ける
まず労災保険の請求書を入手します。
労働基準監督署で入手できるほか、労災保険の請求書は下記ページでダウンロードが可能です。
主要様式ダウンロードコーナー (労災保険給付関係主要様式)|厚生労働省(URL:https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/roudoukijun/rousaihoken.html)
請求書に所定の事項を記入した上で、事業主証明と医師の証明をもらい、労働基準監督署に提出をします。
制度上の建前としては、労働者自身が労働基準監督署に請求書を提出して請求することが原則とされています。
しかし、労働者が労災請求を行うのが困難なときは、労働者の労災申請を助けるとする、助力義務が会社(事業主)に課せられています。
そのため、会社が請求を代行することも可能で、現実にはほとんどのケースで会社が請求を行っています。
労働基準監督署長が提出された申請書をもとに調査を行い、労災と認定されると給付を受けることができます。
会社への損害賠償
労災保険からの給付の他に、会社に対する慰謝料などの損害賠償請求ができる場合があります。
会社は、労働者に対して労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をする義務があります(安全配慮義務:労働契約法5条)。この義務に違反して労働者が怪我や病気になった場合は、債務不履行として会社に対して損害賠償請求をすることができます。
たとえば、機械の故障のために事故が起きた、危険な作業方法のため事故が起きた(安全帯不着用、重機の危険な利用方法)、必要な装備が支給されていないことに事故の原因がある、安全教育が不十分なために事故が起きた、などなどです。
また、他の従業員の行為によって労災事故が発生したという場合にも、会社に責任が認められ、会社に損害賠償請求をすることができます。
建設現場における労災事故で問題になること
建設現場における労災事故で問題になることとしては次のことが挙げられます。
労災隠し
1つ目は、下請会社の労働者が労災に被災した場合の労災隠しです。
建設現場においては、下請会社の労働者にも元請会社の労災保険で対応することになります。
そのため、下請会社の労働者に労災事故が起きた場合、元請会社から圧力をかけられたり、下請会社が元請会社との関係の悪化を恐れて、労災隠しをされることがあります。
「労災から給付されるのは元請会社だけ」
「怪我の程度が軽いので労災にはならない」
「アルバイト・派遣は労災の対象ではない」
もちろん、これらの言い分はすべて誤りです。「労災隠し」であり、犯罪行為です。
また、元請に迷惑を掛けないように(元請の労災保険を使う事態にならないように)、全く別の場所(典型的には下請会社の土場など)で全く別の態様(典型的には自分で転んだなど)で事故が起きたように偽ることがかなり多くみられます。
これもまた「労災隠し」であり、犯罪行為です。
このように労災隠しをされてしまうと、必要な補償が受けられなくなったり、証明の問題から本来できたはずの損害賠償請求が困難になってしまったりと、被災者には不利益しかありません。絶対に労災隠しはされないように気をつけなければなりません。
重大事故で十分な補償を得られないことがある
建設現場における労災の特徴は、重大な事故に繋がりやすいことです。
たとえば、怪我をして1年仕事を休まなければならなくなったような場合、労災保険給付として、治療費などの療養補償給付・仕事を休んだ分の休業補償給付を受けることができます。
しかし、休業補償給付については、1~3日目の待機期間があり、その間の補償を得られず、また収入の80%までしか補償されません。
また、後遺障害が残った場合に受けることができる障害補償給付も、「逸失利益」として裁判所に認定される損害額に比べると十分とはいえません。
これらの足りない部分について、会社に責任がある場合には、損害賠償請求をすることが可能です。
元請に対する損害賠償請求の可能性
建設業の場合、多数の下請構造があることが多く、被災者の直接の雇用主(会社)は小規模であることや個人事業主であることも珍しくありません。
そのような場合、仮に雇用主に損害賠償責任が認められたとしても、雇用主に支払能力(資力)がなく、かつ、事業賠償責任保険にも加入していなければ、現実に賠償金の支払を受けることは難しいのです。
もっとも、元請会社に対する損害賠償請求ができる可能性はあります。
事業主が責任を負う根拠である「安全配慮義務」は必ずしも直接の雇用関係がある場合には限定されないのです。最高裁昭和50年2月25日判決(陸上自衛隊事件)は安全配慮義務について、「ある法律関係に基づいて特別な社会的接触の関係に入つた当事者間において、当該法律関係の付随義務として当事者の一方又は双方が相手方に対して信義則上負う義務として一般的に認められるべきもの」としており、直接の契約関係がない元請会社に対して、損害賠償請求ができる可能性を認めているのです。
建設現場で労災事故に遭った場合は弁護士に相談を
建設現場で労災事故に遭った場合には弁護士に相談することをお勧めします。
その理由としては次のようなものがあります。
どのような請求が可能かの判断ができる
どのような請求が可能かを知ることができます。
たとえば、労災に被災したにもかかわらず、労災隠しに遭っている場合に、労災保険の給付を請求できるのかの判断ができます。
また、会社・元請会社に対して安全配慮義務違反についての追及が可能かの判断ができます。
会社・元受会社との交渉や法的手続きを任せる
弁護士に依頼すれば、会社・元請会社との交渉や法的手続を任せることが可能です。
労働者が一人で会社・元請会社と交渉するのは、立場や知識などから極めて不利であり、適切な補償を受けられなくなる可能性があります。
また、訴訟等の法的手続を自ら行うのは非常に困難です。
弁護士に依頼すれば、これらを任せることができます。
後遺障害等級認定のサポート
労災で負った怪我が重い場合、後遺障害が残ることがあります。
後遺障害が残った場合、労働基準監督署にて、その重症度に応じて第1級から第14級に分けられた等級に認定してもらい、その等級に応じた補償を受けることになります。
弁護士に依頼すれば、後遺障害の等級認定のサポートもすることができるので、労災保険で不利益を受けることもなくなります。
より重い等級での認定を勝ち取ることは、その後に会社へ損害賠償請求をするに際しても決定的に重要なことです。
弁護士に依頼すればこれらのサポートを受けることができます。
他の労働問題についても検討が可能
他の労働問題についても検討が可能です。
労災以外にも労使間には様々な問題が発生することがあります。
残業代が適切に払われていない・休日労働や休憩に関する法律が守られていない・違法な長時間労働が常態化している、といった場合には別途残業代や慰謝料の請求が可能な場合があります。
弁護士に相談すれば、他の法律問題についても併せて検討することができます。
まとめ
本記事では、建設現場における労災事故があった場合の補償や損害賠償についてお伝えしました。
建設現場における労災については、建設現場ごとに元請会社の労災に加入するという労災自体の特殊性や、墜落・転落などによって大きな労災事故につながりやすいという業種が持つ特殊性があります。
労災に被災した場合、適切な補償を受けられるには、弁護士に相談することをお勧めします。
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