自分のミスで怪我をした!労災保険の給付はされる?損害賠償はできる?弁護士が解説
仕事中に怪我をした場合、労災保険を利用することになります。
しかし、例えば前日遊びすぎて寝不足で出勤をした結果、ミスをして怪我をしたような場合に、労災保険の給付はされるのでしょうか。
本記事では、自分のミスで怪我をした場合に労災保険の給付を受けられるのか、また会社への損害賠償は可能なのかについて弁護士が解説します。
自分のミスで怪我をした場合でも労災保険は給付される?
仕事のミスで怪我をした場合でも労災保険の給付はあるのでしょうか。
自分のミスで被災した場合でも労災保険の給付がされる
労災保険は自分のミスで労災に被災した場合でも、労災保険の給付がされます。
労災保険では、被災労働者が故意に(わざと)負傷、疾病、障害、死亡またはその直接の原因となった事故を生じさせた時には、労災保険給付が制限されることはあります。
しかし、労働災害の発生原因について、労働者自身に過失(落度、ミス)があっても、それをもって労災保険の給付請求が制限されることにはならないのです。
自分のミスで労災に被災した場合には労災隠しに注意
このように自分のミスで労災に被災した場合にも、労災保険給付を受けられます。
しかし、会社(事業主)から「自分のミス・過失で怪我をしたのだから、労災保険は使えない。」と言われることもあります。
端的に言って、これは誤りであり、嘘です。
このように、実際には労災に該当するにも関わらず、誤った働きかけによって労災の申請を妨げることは「労災隠し」にあたります。
このような場合には、直ちに労働基準監督署に相談をして、会社への指導をしてもらうなどしましょう。また、弁護士に相談することも有用です。
とにかく、労災隠しをされたままにしないことが大切です。
自分のミスで怪我をした場合でも損害賠償請求ができる可能性もある。
次に、自分のミスで怪我をした場合でも、会社に損害賠償請求ができる場合もあることを知っておきましょう。
労災に被災した場合に会社に損害賠償請求ができることがある
まず、労災に被災した場合に、会社に損害賠償請求ができることがあることを知っておきましょう。
会社(使用者)は「労働契約に伴い、労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をする」義務があるとされています(安全配慮義務:労働契約法5条)。
そして、会社がこの安全配慮義務に違反して労災事故が起きた場合には、損害賠償を求めることができます(債務不履行:民法415条)。
たとえば、職場で使っている機械に不具合が生じているにも関わらず、そのまま使用させ続けた結果、不具合のために労災事故が起こり、労働者が怪我をしたような場合には、会社には安全配慮義務違反が認められます。
そのため、会社に対して損害賠償請求をすることが可能です。
自分にもミス(過失)がある場合には過失相殺がされる
会社に損害賠償請求ができる場合で、自分にもミスがある場合には、損害賠償請求は可能なのでしょうか?
損害賠償請求を行う際には、自分に過失がある場合には、その過失分については賠償額から差し引くことになっています。
このことを過失相殺と呼びます(民法418条)。
損害賠償請求自体は可能なのですが、自分の過失の割合によって賠償額が差し引かれることになります。
自分以外のミスで自分が怪我をした場合
ミスをしたのが自分以外の場合、労災保険給付や会社への損害賠償請求はできるのでしょうか。
自分以外のミスで自分が怪我をした場合の労災保険
当然に労災保険からの給付を受けられます。
自分以外のミスで自分が怪我をした場合の損害賠償
自分以外の他の従業員ミスで自分が怪我をした場合、会社に対して損害賠償請求をすることができます。
他の従業員のミス(過失)による事故のために、怪我を負った場合、他の従業員に対して損害賠償請求をすることができます(不法行為、民法709条)。
さらに、他の従業員を雇用している会社は、使用者責任(民法715条)がありますから、他の従業員と同様に、被害者の受けた損害を賠償する責任を負います。
この場合、他の従業員個人の責任と会社の責任は両立し、ほとんどの場合、会社が現実に支払うことになります。
会社に損害賠償を請求する方法
会社に対して損害賠償を請求する場合にはどのような方法によるのでしょうか?
交渉
会社に損害賠償の支払を求めて交渉を行います。
会社が支払義務を認め、任意に支払ってもらえれば、解決ができます。
民事訴訟
会社が損害賠償の支払に応じない場合には、裁判所に訴訟を提起することができます。
訴訟となると、被告(会社)も色々と争うことが多いので、どうしても時間はかかります。
審理は裁判所の進行管理のもとで行われていきますが、ある程度の審理が進んでいくと、裁判所が和解案を示すなどして(もちろん裁判所は適当に案を示すのではなく、双方の主張・立証を受けて裁判所の考えに基づいた案を示します)、和解を試みることがあります。和解が整えば、訴訟は終了します(訴訟和解といいます)。
和解ができない場合には、最終的に裁判所が判決を下すことになります。
労働審判
労働問題についての争いとなった場合の紛争解決手段として、労働審判というものが用意されています。
労働審判とは、労働者と会社との間の労働関係のトラブルを、迅速・適正に解決するための手続です。
労働審判は、裁判官である労働審判官1名と、民間から選出される労働審判員2人による労働審判委員会によって主催され、まず調停が行われ、調停が不調に終わると審判が下されます。期日は原則として3回とされているなど、迅速に終わることにも配慮されています。
ただし、労災事故での損害賠償請求には労働審判はあまりなじまないので、労働審判によって解決を図るケースは多くないでしょう。
労災が起きたときには弁護士に相談・依頼すべき理由
労災が起きたときには弁護士に相談・依頼することをお勧めしています。
その理由としては次の通りです。
会社への損害賠償が容易になる
会社への損害賠償が可能かどうか判断ができます。
ここまでお伝えしているように、会社に安全配慮義務違反がある場合には、労災保険の給付のほかに、会社に対して損害賠償を請求することができます。
仮に自分のミスによる労災事故の場合でも、請求が可能な場合があるのです。
これらの判断は非常に難しい上に、損害賠償ができる場合でも会社と厳しい交渉を強いられることもあります。
弁護士に相談・依頼をすれば、損害賠償の可否を判断し、会社との交渉を任せることが可能です。
労災隠しをされた場合に対応できる
労災隠しをされた場合に対応できます。
先に述べたように、自分のミスでの怪我であることを理由に、労災隠しをされてしまうことがあります。
弁護士に依頼すれば、会社と交渉するなどして、きちんと労災保険給付を受けられるようにすることができます。
後遺障害の等級認定をサポートしてくれる
労災で負った怪我が重い場合、後遺障害が残ることがあります。
後遺障害が残った場合、労働基準監督署にて、その重症度に応じて第1級から第14級に分けられた等級に認定してもらい、その等級に応じた補償を受けることになります。
たとえば、仕事中に交通事故にあった場合で、むち打ち症になった場合、その重症度に応じて12級「局部にがん固な神経症状を残すもの」か14級「局部に神経症状を残すもの」のどちらかに認定される可能性がありますが、等級非該当という場合もあります。
本来12級に認定されるような症状であるにもかかわらず、14級認定にとどまるとか、等級非該当とされてしまうと、受けられる給付が少なくなったり、給付を受けられなくなったりしてしまいます。
弁護士に依頼すれば、後遺障害の等級認定のサポートもすることができるので、労災保険で不利益を受けることもなくなります。
その他の労働問題がある場合も一緒に解決できる
労災保険や損害賠償でトラブルになるような場合、他にも未払い残業代・違法な長時間労働などの労働問題が存在していることがあります。
弁護士に相談することで、解決可能な労働問題を検討することができます。
まとめ
本記事では、自分のミスで怪我をした場合等の労災保険給付・会社への損害賠償請求についてお伝えしました。
自分のミスで怪我をした場合も労災保険の給付を受けることができます。
また、会社への損害賠償も可能な場合があります。
まずは弁護士に相談をして、どのような請求が可能かを検討してみましょう。