高齢者施設(特別養護老人ホーム)で入所者からの暴力を受けて負傷、障害等級11級の認定、勤務先法人から約800万円の賠償金を得た例

事故内容

依頼者(50代女性)は社会福祉法人が経営する特別養護老人ホームで、介護職として業務に従事していましたが、ある時、入居老人(女性、重度認知症)の移乗介助をしていた際、不意に顔を平手で張られて首を負傷してしまいました。

小柄な老人であったことから、そこまでの威力の暴行ではなかったのですが、不意に平手打ちを受けたことや、依頼者の頚椎には元々年齢性の変性疾患(頚椎症)があったことから、依頼者の受けた怪我は頚髄損傷と診断されるなど重くなってしまいました。

業務中の暴力被害事故ですから、当然ながら労災保険の適用があり、依頼者は労災保険による治療を受けました。
依頼者は約1年間の通院治療を続けたものの、最終的に両腕、両足のしびれなどの症状が残り、これについては労基署から11級の障害等級認定を受けました。

 

依頼の経緯

加害老人の暴力行為は明らかに依頼者への不法行為ですが、本人は重度の認知症で責任能力(民法713条)がないため、不法行為責任(損害賠償責任)を負わないと考えられました。

その一方で、勤務先は、加害老人が職員に対して頻繁に暴言を吐き、度々暴力行為に及んでいたことを把握していたので、安全対策を怠ったことに落ち度があるのではないかと思われました。

しかし、勤務先は依頼者の介護の仕方が悪いかのような態度を取り続けていたこともあって、依頼者は勤務先に対する不信感を抱いており、今後の損害賠償の点なども含めて、当事務所にご相談、ご依頼をされました。

 

弁護活動

勤務先に対して、損害賠償請求を行いました。損害賠償の内容は、通院慰謝料、休業損害、後遺障害による逸失利益、後遺障害慰謝料等です。

勤務先には代理人弁護士がつきましたが、やはり予想どおり、勤務先は責任を一切認めない対応で、全く示談交渉には応じませんでした。
そこで、当方は裁判所へ損害賠償請求訴訟を提起しました。

 

介護施設での暴力被害事故における施設の責任のポイント

勤務先の責任追及(安全配慮義務違反等)をするにあたっての根拠として、①加害老人による暴力行為を勤務先が予想(予見)できたこと、②適切な安全対策によってその暴力被害を防止できたことが必要です。

紛争になった場合、相手方(本件の場合は勤務先施設)は、①も②も決して認めないのが普通です。そのため、相手が否定しても裁判所が認めるような証拠資料を収集・提出することが重要です。

①暴力の予想(予見)の関係での証拠資料としては、暴力老人についての各種資料(日々の介護記録やプロフィール資料など)となります。
このような資料は介護施設であれば必ず存在するはずです。
それらに暴力傾向や暴力行為が記載されていれば、その頻度等にもよりますが、勤務先は「暴力行為を予想できなかった」とは言えないでしょう。

②暴力被害を防ぐ手立て(安全対策)については、その入居者の暴力傾向の程度等にもよりますが、介護には複数人で対応できる人的体制や、それに準ずるような物的体制が必要と判断されるでしょう。

以上についての詳しい解説は、当サイトの「介護施設における暴力型労災事故」をご覧ください。

 

訴訟での徹底的な主張立証と結果

訴訟でも勤務先は徹底的に争い、当方が提出を求める介護記録等の資料も任意に提出しないなど責任の有無を徹底的に争い、また依頼者の障害の存在や内容も争う、依頼者の介護方法に不適切な点があった(過失相殺)など損害論でも徹底的に争ってきました。

法律的に難しい点など、難解な争点も多く含む訴訟でしたが、裁判所は被告(勤務先)に対して文書提出命令を発令するなど、当方の主張が受け入れられる形で訴訟は進行しました。

1年数か月に及ぶ長い訴訟でしたが、結論としては、裁判所は、勤務先の責任を認める、依頼者の障害の存在も認める、暴力被害事故に依頼者の過失はない、と当方の主張を全面的に認める和解案を出しました。

勤務先は裁判所の和解勧告を受けても、なおやや抵抗しましたが、最終的には受け入れるに至り、和解成立となりました。

 

結果

これまでの労災保険からの給付(約350万円)とは別に勤務先が約800万円を支払うという形で和解となりました。

金額ももちろんですが、依頼者にとっては、これまで頑として責任を認めなかった勤務先が責任を認めることを受け入れたということで、大変満足いく結果となりました。
依頼者にとって、大変良い解決となったものと思います。

労災事故に遭われて、お悩みの方はぜひ一度、ご相談なさってみてください。
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