林業・木材製造業における労災について

林業や木材製造業は、住居などの建物の基礎となる私たちの生活には欠かせない産業ですが、その裏側では労働災害が問題となっています。この記事では、その実態と具体的なケース、そして、労災被害に遭ってしまった場合、どうすべきかについて解説します。

林業の労災事故の状況

令和6年の統計上、林業における災害発生状況としては、死亡者数31人(うち北海道4人)、死傷者1167人(うち北海道79人)となっています。ちなみに全都道府県の中では北海道が最も多くなっています。他には宮崎県や高知県など林業が盛んな県も多く、東北地方も多くなっています。

また、北海道内における木材製造業での災害発生状況は、死亡事故こそ年に1件あるかないかですが、死傷者数は毎年100人前後と林業とほぼ同数で推移しています。

 

林業・木材製造業の労災事故の特徴・要因

伐倒木による事故

伐採した木の下敷きになる、接触して負傷するという形での事故が最も多く、林業における死傷事故の7割程度を占めています。

具体的には、チェーンソーで伐倒した木が他の木に引っ掛かり、地上まで倒れきらない「かかり木」状態を、重機や牽引具を使って安全に地上へ降ろす作業(かかり木処理)を安全に行わないために災害が発生することがあります。

また、かかり木処理でなくても伐倒木による事故も多く発生しています。
具体的な原因としては、立入禁止範囲への立ち入り、正しい伐採方法をとっていない、保護具の不着用、チェーンソー使用資格がないまま作業に従事するなどです。

災害発生の危険性が大きく、かつ重大な災害となる可能性が大きいことから、安全で適切な作業方法をとることが強く求められます。
事前の安全教育や作業中の安全確認も大きく要請されていることは当然です。

重機など機械による事故

林業用グラップル(つかみ機)で伐倒木を掴んで、ダンプ等に積み込む際に木を落下させて作業員に激突してしまう事故などがあります。
切り倒された木は非常に重く(2~3トンも珍しくありません)、これを運搬するには重機を使用することから、重機による事故も多く発生しています。
木の衝突のみならず、重機による轢かれ事故、重機からの転落事故などもあります。

さらには、チェーンソーで手や足を切ってしまう事故もあります。

また、木材加工業では、丸のこ盤、帯のこ盤など木材を製材する機械を使用するので、刃に手を巻き込まれてしまう事故もありますし、木材を運搬するベルトコンベヤーに手や足が巻き込まれてしまう事故もあります。

適切で安全な方法で操作・使用しているか、機械の危険部分には覆いや囲いがあるか、異物を取り除いたり点検作業の際には機械を止めて作業しているかなどが事故防止のために重要な観点です。

熱中症

林業は屋外で行う作業ですから、特に夏季には、高温多湿な屋外環境での長時間にわたる業務となり、熱中症の危険性が大きくなっています。
近年特に熱中症の危険性は大きく、令和7年からは死亡などの重大災害を予防するために、国の規制も強化されました。

熱中症と労災についての詳しい解説は、
仕事中に熱中症になったら労災として認められる?
をご参照ください、

蜂さされ事故

山林で作業するという林業の特質上、蜂(特にスズメバチ)に刺されてしまう事故も一定数発生します。

これを防止するため、防蜂網や防蜂手袋の使用、黒っぽい服装を避ける、肌の露出をなくす、事前に現場を確認しておく等の措置が求められます。

 

実際の事故事例

当事務所で取り扱った事案の一例です。

林業におけるチェーンソー事故の例

詳細は「無資格であるにもかかわらずチェーンソーを使用させて立木の伐採作業に従事させられた結果、足が倒木の下敷きになる骨折事故、障害13級の認定、約600万円の賠償金を得た例」をご覧ください。

事故内容

依頼者(50代男性)は、ダンプトラックの運転手として稼働していましたが、冬季のダンプ作業が少なくなる時期、会社代表者から突然木を切る作業をしてもらうと言い出し、依頼者にチェーンソー作業をするよう命じました。

実はチェーンソー業務に労働者を従事させるには、当該労働者に特別教育を受けさせなければなりません(労働安全衛生法59条3項・労働安全衛生規則36条8項)。しかし、依頼者はそのような特別教育を受けたことはありませんでした。

依頼者は、チェーンソーによる木の伐採のやり方などロクにわからないまま作業した結果、木が倒れてくる方向に足を残したままにしていたため、倒れてきた木の下敷きになってしまい、足を骨折する事故に遭ってしまいました。

依頼の経緯

依頼者は、怪我のために勤務先会社での稼働を続けるのは身体的に不可能ということで、依頼者は退職していましたが、会社からは何の補償もありませんでした。

勤務先会社の代表者は依頼者が資格(特別教育の受講)を有しているかどうかを全く構うことなく、漫然とチェーンソー作業を命じており、明らかに本件の労災事故の責任があると思われるところですが、依頼者に対して何の謝罪も補償もしないという実に不誠実な対応でした。

そのため、依頼者は不信感を抱き、当事務所にご相談、ご依頼をされました。

弁護活動

勤務先会社に対して、事故の原因は安全配慮義務違反によるとして損害賠償請求を行いました。
具体的には、無資格者にチェーンソー作業をさせた点、木の伐採方法等についての適切な教育をしなかった点、何の防具(防護服や防護靴など)もさせないで作業させた点が安全配慮義務違反ということです。

勤務先会社は、責任自体は否定しないものの、依頼者の不適切な操作により事故が起きたとか、他にも様々な理由をつけて損害賠償額を下げる主張をしてきたため、交渉は決裂しました。

訴訟でも、勤務先会社は様々な主張をしましたが、最終的には裁判所から心証に基づく和解案が示されました。
依頼者の木の切り方に多少の過失を認めるもの(過失相殺)でしたが、概ね当方の主張が認められており、当方も勤務先会社も和解案を受け入れて和解成立となりました。

結果

最終結果として、それまでの労災保険給付(約500万円)の他に、依頼者は勤務先会社から約600万円の賠償金を得ました。

木材製造業における製材機械事故の例

詳細は「木材加工工場にて帯のこ盤で製材作業中、軍手が木材に引っ掛かって刃に接触し、指を負傷、障害12級の認定、約1700万円の賠償金を得た例」をご覧ください。

事故内容

依頼者(20代男性)は、帯のこ盤を使って、木材を薄くカットする作業に従事していましたが、短めの木材を製材する際、軍手が木材に引っ掛かってしまって、手が木材と一緒に進んでしまった結果、刃に指が接触して切れてしまう労災事故に遭いました。

依頼の経緯

依頼者は、労災事故時、入社して2週間しか経っていない新人で、しかも非常に小規模な勤務先では、安全教育、特に帯のこ盤の正しい使用法、安全な使用法を十分に教えていませんでした。入社して早々に依頼者単独での帯のこ盤作業をさせるという不安全な作業指示をしていたのです。

また、木材に引っ掛かりやすい軍手を使用させていたことにも安全上の問題があると思われました。

このように依頼者の労災事故には、会社の責任があると思われましたが、勤務先会社からは全く何の対応もなかったことから、依頼者は当事務所にご相談、ご依頼をされました。

弁護活動

事故の原因は勤務先会社の安全教育・指示の不備であること、軍手使用にあること等を指摘して、会社に対して損害賠償請求を行いました。

しかし、会社からの回答は、依頼者の作業方法に重大な過失があり、9割の過失相殺が妥当だから、請求額の1割相当の解決金での示談を提案するというものでした。

当方には到底受け入れられない提案であり、訴訟提起とする方針としました。

訴訟では、勤務先会社は、十分な安全教育をしていたとか、依頼者が勝手に危険な作業方法で行った結果、事故が起きたとかの主張をして、責任を負うこと自体を激しく争ってきました。

しかし、当方は緻密な主張・立証を行い、依頼者や工場長、被告代表者などの本人尋問、証人尋問もきっちりと行い、万全の立証活動を展開しました。

結果、判決ならばこうなるという裁判所の心証に基づいた和解勧告がなされました。
勤務先会社の責任を完全に認めるもので、当方の完勝といえる内容でした。

双方とも裁判所からの和解勧告を受け入れ、無事に訴訟和解で解決となりました。 

結果

最終的に、それまでの労災保険給付(約200万円)の他に、依頼者は勤務先会社から約1700万円の賠償金を得ました。

 

労災申請の流れ

林業・木材製造業従事中に事故に遭って怪我をしたり、ご家族が亡くなったりした場合、速やかに労災保険による治療や補償を受けられるべく、雇用主の方で手続を行ってくれることが通常です。(または雇用主の所属する漁協にて手続を代行してくれる場合も多いです。)

しかし、何らかの理由で、雇用主側から手続がなされないということもあり得ますので、その場合、被災者(ご遺族)自らが積極的に申請のために動かなければなりません。

労災保険の申請と給付については、詳しく解説したこちらの記事をご覧ください。
 労災保険の申請と給付【弁護士が解説】

 

後遺障害が残ってしまった場合に当事務所でできること

林業・木材製造業従事中の労災事故で負傷し、治療を続けたものの後遺障害(手足や指の欠損、関節の可動域制限、痛み・しびれ等の神経症状など)が残ってしまった場合、労働基準監督署に障害等級を認定してもらうために申請をします。

適切な障害等級認定を受けるためには、適切な準備が必要です。
漫然と手続をしたために、本来よりも低い障害等級で評価されてしまっては、大きな不利益を受けてしまいます。

適正な障害等級認定のためのサポートについては、詳しく解説したこちらの記事をご覧ください。
 労災保険の障害申請サポート ~適正な障害等級認定のために~

 

林業・木材製造業における労災事故と損害賠償請求について

勤務先(雇用主)は労働者が就業するにあたって、その生命、身体、健康の安全に配慮する義務を負っています(労働契約法5条)。

どのような場合に会社の責任が肯定されるかは、様々な場合があり、一概にいうことは難しいですが、例えば、
 ・事業主や他従業員のミスがあった
 ・事故が起きてもおかしくない危険な作業方法だった
 ・以前から危ないと指摘されていたのに改善措置がなされていなかった
 ・法令上要求される安全措置(機械など)とられていなかった
 ・無資格にもかかわらず作業を行わせていた
 ・新人従業員に十分な教育がないまま作業に従事させていた
場合などが考えられます。

労災保険からは、治療費や休業補償などの給付はありますが、慰謝料は一切ありませんし、休業補償も給料全額までは補償されません。
さらに後遺障害や死亡事故となった場合、将来得られたであろう稼働収入も全部はカバーされません。

したがって、林業・木材製造業労災の労働者ご本人やご遺族は、労災保険からの補償給付の他に、勤務先(雇用主)に対して、慰謝料や逸失利益等、労災保険ではカバーされない損害を賠償請求することによって確保することはとても大切なことです。

具体的に損害賠償請求として、具体的にどのような内容、金額の請求が可能なのかの目安については、次の記事をご覧ください。
 会社に対して損害賠償請求をお考えの方へ

 労災でご家族を亡くされた方へ

 

林業・木材製造業の労働災害事故と「労災隠し」

林業・木材製造業を営む会社や個人事業は、規模の小さい牧場等も多く、経営者に遵法精神に欠けるところも見られるのも事実です。
そのようなところでは、業務中の事故にもかかわらず、労災ではないとか、健康保険で治療するようにとか、違法な対応をするところもあります。

もしも、このような労災隠しにあった場合には、すぐにでも労基署や弁護士に相談してください。
労災隠しをされるままに放置すると、ご自身に重大な不利益が降りかかりかねません。

「労災隠し」への対処方法~労災隠しの実態と対策をご参照ください。

 

早めの相談・依頼で安心を

ここまで林業・木材製造業と労災保険、損害賠償請求について、なるべく平易にご説明して参りましたが、やはり労災認定が実際にどのようになるのか、勤務先(雇用主)へはどのように請求すればよいのか等、法律の専門家ではないご本人、ご家族には難しい面も多々あると思います。

自分の主張は法律的に正しいのか、証拠資料の裏付は十分なのか、損害賠償の基準(相場)は合っているのか、他に請求できるものがあるのかないのか、裁判例などの実務上の取り扱いに沿っているのか否か・・・と不安点をあげればキリがないと思います。

そこで、経験豊富な弁護士に相談・依頼して、労災認定のサポートをしてもらうという選択肢があります。
また、勤務先会社に対する損害賠償請求についても、弁護士に依頼して、その可否の検討、賠償請求手続を行ってもらうという選択肢があります。

弁護士は損害賠償請求が可能と判断した場合、通常、いきなり裁判を起こすのではなく、会社に通知書等の書面で損害賠償の請求をして示談交渉を行います。
残念ながら話し合いで解決できない場合(示談解決できない場合)には、その先のステップとして裁判解決を目指すことになります。
そのため、裁判まで行かずに示談交渉で最終解決に至る割合はかなり高いのです。

弁護士は、労災の賠償についても熟知しており、複雑・煩雑なやりとり、具体的な証拠の収集、事実認定を経た上での法的主張は日常的に行う業務としてよくなれていますから、ご依頼いただくことでこれらを一挙に担い、有利に、迅速に進めることができます。

労災事故に遭われて、お悩みの方はぜひ一度、ご相談なさってみてください。
ご相談は、電話でもメールでもLINEでも可能で、いずれも無料です。ご相談はこちらです。